秋の暮らし2012年9月23日 妖しの霧
人が来て、送りがてら散歩に出た夕方。
八ヶ岳から雲を引きずるように霧が降りてきた。見る間に一段ずつ下界を侵食し、やがて窪地を白く満たし、林から薄白い風の手になって湧き出す。霧は妖(あや)し。世界のすべてに手を触れ巻き込み、正気を失わせそうになまめかしい。
偶然行く道が霧に分け入っていると、別世界の入口のようで、二度と戻れないかもしれない、と肩甲骨の間がざわめく。
それでも引かれるほどの引力に、人は魔という字を当てるのだろう。
たまげるを魂消えると書くが、夕方の霧には魅入られた魂を自ら両手で差出しかねないほどの妖しがある。