壺中天の秋 2012年 9月
けさ、畑は秋になった。冷えた風が、広い薄刃のように畑を横切り、緑という色から立ちのぼる伸びる力を、さーっ、さーっと斜めに刈ってゆく。もう戻らない。そう思わせる風が吹いたのだ。これからどんなにカンカン照りが続いても、だまされないぞという気持ちで、景色の底に秋を見る。それはいつもおどけている仲間内の男の子の、ひょいとこぼした端正な面を見て以来、そのテヘヘ顔にうそっぽさと尊敬と親しさを抱くのと似ている。壺中天。私たちは秋の壺の底から、高く小さい丸い蓋になった夏を見上げる。時間は戻らない。やがて景色の底は冬になり、ひたすらに待つ喜びがあり、やがて待たれた春が来る。2012/09/18